インターネットを利用した布教の実態調査

インターネットを利用した布教の実態調査
― 電子メールによるアンケートより―


平成9年調査・平成9年度曹洞宗教化学大会発表要旨
貞昌院副住職 亀野哲也


はじめに

 近年は情報化時代と象徴され、コンピュータとそれらを結ぶインターネットという巨大な情報網を生んだ。そしてインターネットの急速な拡大とともに、それを宗教活動に利用する事例は、新宗教に限らず伝統仏教においても着実に増えている。一例として検索サイト(電話帳のようなもの)の一つ「寺院コム」を紐解くと、平成9年6月現在、登録・公開している国内の伝統仏教組織・寺院は約150であった。
 しかしその一方でコンピュータと伝統宗教という新旧のギャップを感じる人もまだ多いのではないかと思う。
 今回は、実際にインターネットを布教手段として利用している伝統的宗教組織・寺院を対象にアンケート調査を行ない、情報発信者の立場からの意見を分析してみたいと思う。得られた結果を基に、インターネットにおける宗教活動の可能性と問題点を浮き彫りにしていきたい。

調査方法

 調査対象は国内の伝統仏教組織・寺院である。一般的な検索サイトに登録している150のサイトのうち、メールアドレスを公開している65件を対象に平成9年6月6日、ほぼ全数調査の形で行なった。調査の性格から判断してアンケートの送付及び回答受信は電子メールを使うこととした。電子メールによる調査という試みも目的の一つである。(アンケートの内容)

調査結果

 送信数65のうち、有効回答として得られたのは47通(72%)であり、その宗派別内訳は図1の通りである。
 回答受信までに要した日数は、送信から2日間で62%、1週間で85%であった。(図2)

①「ホームページの公開時期(図3)  回答中、最初に公開されたホームページ(正確にはウエブページ)は平成7年5月であった。その後、インターネットが身近になるきっかけとなったWindows95の発売(平成7年秋)を境に、翌年からサイトの数が急増している。それ以降増加のペースはほぼ一定となっている。

②「ホームページの作成者(図4)
 これは、情報の発信源が誰によるものかを調査したものである。寺院のホームページと言っても、必ずしも代表者が作成、運営しているとは限らない。これは宗教に限らずどの分野でも言えることである。 結果は、住職・副住職・寺族が3/4以上を占め、ホームページの内容と、発信者がほぼ一致していた。このことは特に宗教においては重要で、信頼性の確保やホームページ閲覧者からのフィードバックを直接誰が受けるのかに係わる問題となる。

③「作成者のコンピュータ歴(図5)
 結果を見ると、コンピュータを十年間以上使用してきている人がほとんどであった。寺院の運営上、過去帳や会計など、コンピューターを活用している寺院の数はかなり多いものと思われるが、インターネットという外部のネットワークと接続するのには多少心理的抵抗があるためと推測される。しかし、次第にコンピュータの家電化が進み、今後はより短い期間でネットワークに接続する傾向にあると思われる。(図に見られる第2のピークはこれである)
 また、身近にインターネットをしている人が増えることも今後さらに期間を短くする要因となるだろう。

④ 「作成者のインターネット歴(図5)
 結果として三年未満との回答が殆どである。これはプロバイダが個人向け接続サービスを開始(一九九四年)し、より身近になった時期と一致する。また、①の結果と併せてみると、ホームページの公開は、インターネットを始めてから比較的早い時期に行う傾向があることが判る。

⑤ 「インターネットへの接続時間(図6)
 これは、月10~20時間をピークに、100時間超までまんべんなく分布した結果となった。接続時間には、他のサイトの閲覧、電子メールの送受信、自分のサイトの更新、ネットニュース、電子会議など様々な要素が含まれるため一概に言えないが、大規模なサイトを運営するほど更新作業は煩雑になってくるし、閲覧者からのメールも増大し、電子メールの送受信が増える。定期的にサイトの内容のメンテナンスを行ない、受信メールに回答し返信を送ることは、宗教のサイトでは特に重要であろう。

⑥「次の各項目が効果的・受入られると思うか(図7)
 質問は、現在宗教のサイトで実際に提供されている内容を検討して14項目作成した。順番については質問票の通りである。回答は五段階評価で依頼した。結果を加重平均して数値の大きい順に並べ替えたものが図7である。
 つまり上に位置する項目ほど効果的・受け入れられるとの評価と考えて良いだろう。
 「お寺・住職を身近にする」「若い世代へのアピール」「宗派を超えた意志疎通」の上位三項目については、効果的・やや効果的との回答が約七割に達し、無効果との回答は皆無である。インターネットの利用者が20~30代を中心とした層であることから、閲覧者やレスポンスもこの世代が多い。
 「世界へ向けた情報発信」については、世界を結ぶインターネットの特徴を言語の壁によって生かしきれていない実体が浮き彫りになった。
 「実体の無い宗教団体による布教」については、カルト教団による布教活動の実態や、アメリカでの集団自殺など反映して上位にランクされた。
 「人生相談」については、電子メールの匿名性による気軽・手軽な相談も指摘されるが、逆に深刻な相談が多く寄せられる実例もある。こまめに回答する努力を行なっている寺院が目立った。
 「檀信徒へのアピール」については、効果的・無効果という両極端の回答が極めて少ない。これは檀信徒がインターネットを始めていない場合が多く、未知の部分が大きい為と推測される。しかし、菩提寺をインターネットを通して見ることの新鮮さは否めないであろう。今後、普及に伴ってこの項の数字は変化していくと思われる。
 「バーチャル参拝」「おみくじなどの占い」は、アミューズメント的要素として、多くの寺院ホームページで見ることができる。サイト訪問のきっかけになってくれれば程度の意識で設定している場合が多い。
 「檀信徒の獲得」は効果があまり無いとする意見が多かった。しかし、新興宗教ほど効果的に活用しているとの意見や、対面を重視せずネット上の交流に重点を置く「対面しない宗教」の可能性も指摘される。
 「ペットの仮想墓地」「人間の仮想墓地」は、アメリカやイギリスですでに実用化されている。日本においては今春に仮想霊園が登場し話題となった。けれども単なる興味半分に過ぎないだろうとの見方が大半である。
 「祈祷・祈願」「読経」については、あくまでも現実の僧侶が目の前で行うもので、コンピュータから流れる「お経」は意味をもたないとの回答であった。

⑦ インターネットの利点・欠点
 回答として得られたものを、表8に箇条書きにした。なお、キーワード毎に分類して並べ替えてある。

まとめ

 以上、実際に寺院のサイトを運営する立場からの意見を集計してきたが、全体的にインターネットを使った宗教活動は未成熟な段階であり、各サイトともこの「長所」と「欠点」から様々な活動を模索している状態にあるといえる。しかし、寺院を網羅するネットワークが完成し、機能するようになればインターネットはとても強力な布教手段と成り得ると感じる。これからの展開に着目したい。また、実際に伝統仏教の立場でサイトを運営している主催者からの意見は、今後の方向性に大きな指針となるのではないだろうか。
 今回の調査はアンケート発送から集計までの期間を大幅に短縮することができた。この背景にはインターネットの即時性・双方向性に加え、サイト運営者が日常こまめに電子メールの受送信を行なっているという事実があることを忘れてはならない。最後になりましたが御協力戴いた関係各位に感謝し、まとめといたします。


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